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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』74

last update Last Updated: 2025-01-23 17:00:40

どこかで聞いたことがあると思って振り返ると、紫藤大樹さんが立っていた。横には細くて可愛らしい女の人がいる。

「おう、大樹」

「赤坂がステージから落ちるなんて、らしくないな」

びっくりして立ち上がった。

「こんにちは」

頭を下げてくれた紫藤大樹さん。イケメンで見惚れてしまう。

「おい、久実。何顔を赤くしてんだよっ。大樹は結婚してんだぞ」

苛ついた声で赤坂さんが怒鳴ると、紫藤さんの隣にいる女性がクスっと笑った。

「はじめまして。紫藤の妻の美羽と申します」

この人が紫藤さんの奥さんなのか。控えめで可愛らしい方だ。

「赤坂さんの彼女さん?」

「まだだ」

紫藤さんの質問に赤坂さんは不機嫌そうに答えた

まだって、どんなに時が流れても付き合うことはないのに――。

「えー……お付き合いしてないんですか」

なんでそんなに残念な声を出すのか、わからないですよ……美羽さん。

きょとんとした表情を浮かべられてしまった。

私は話の流れを変えるために自己紹介をすることにした。

「川井久実と申します。……赤坂さんのファンで……私、心臓病で赤坂さんに激励していただいていて」

「今はまだ恋人じゃないんだ?」

紫藤さんがサラリと言うから、動揺してしまう。

どうして、そんなにカップルにしようとするのか……。困ってうつむいてしまった。

「そうだ。赤坂さんが退院したら二人で遊びにいらしてください」

「え……。私なんかお邪魔していいんですか?」

「ええ、ぜひ! おもてなしさせてください」

美羽さんの人を包み込むような笑顔を見ると、ついついうなずいてしまった。

「では、帰ります」

私が言うと赤坂さんは手首をガシッとつかんだ。

紫藤さんご夫妻の前なのに、なんでそんなことするの?

困惑した表情を浮かべつつ、赤坂を見ると真剣な表情をしていた。

「久実。明日退院だから」

「そ、そうですか」

「家に来てくれよ」

「………無理です」

手を振り払った。紫藤さんご夫妻に頭を下げて私は病室から急いで出て行った。

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    「妹が置いていった服ならあるけど。サイズ合うかな」「勝手に借りていいのかな?」「心配なら聞いてやるか」スマホで電話をはじめる。「あ、舞? 久実に服貸していい?」『えー! 家にいるの? 泊まったってことは、えーなに? 付き合ってるとか~?』ボリュームが大きくて話している内容が聞こえてしまう。「付き合ってくれないけど、まぁ……お友達以上だよ。じゃあな」お友達以上だなんて、わざとらしい口調で言った赤坂さんは、得意げな顔をしている。「……じゃあ、お借りするね」黒のニットワンピース。着てみるとスカートが短めだった。ひざ上丈はあまり着たことがないから恥ずかしい……。着替えている様子をソファーに座って見ている。「見ないで」「部屋、狭いから仕方がないだろう」「芸能人でお金もあるんだから引っ越ししたらいいじゃない」「結婚する時……だな」その言葉にドキッとしたが、平然を装った。私と……ということじゃない。一般的なことを言っているのだ。メイクを済ませると赤坂さんは立ち上がって近づいてくる。見下ろされると顔が熱くなった。「可愛い。またやりたくなる……」両頬を押さえつけたと思ったら、キスをされる。吸いつかれるような激しさ。顔が離れる。赤坂さんの唇に色がうつってしまった。「久実……愛してる」……ついつい私もって言いそうになった。「せっかく 口紅塗ったのに汚れちゃったじゃないですか」 私はティッシュで彼の唇を拭った。 すると 私の手首をつかんで動きを止めてまた さらに深くキスをしてきた。「……ちょっ……んっ」「久実、好きって言えよ」「……時間だから行かなきゃ」

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』78

    久実sideふんわりとした意識の中、目を覚ますとまだ朝方だった。今日は休みだからゆっくり眠っていたい。布団が気持ちよくてまどろんでいると、肌寒い気がした。裸のままで眠っている!そうだった……。また、赤坂さんに抱かれてしまったのだ。逃げればいいのに……逃げられなかった。私の中で赤坂さんを消そうと何度も思ったけど、そんなこと無理なのかもしれない。すやすや眠っている赤坂さんを見届けて、ベッドから抜けようとするとギュッとつかまれた。「どこ行くつもりだ」「帰る」「………もう少しだけ。いいだろ」あまりにも切ない声で言うから、抵抗できずに黙ってしまう。強引なことを言ったり、無理矢理色々したりするのに、どうして私は赤坂さんのことがこんなにも好きなのだろう……。もう少しだけ、赤坂さんの腕の中に黙って過ごすことにした。太陽がすっかり昇り切った頃、ふたたび目が覚めた。隣に赤坂さんはいない。どこに行ってしまったのだろう。自分のスマホを見るとお母さんから着信が入っていた。「……ああ、心配させちゃった……」メールを打つ。『友達と呑みに行くことになって、そのまま泊まっちゃった』メッセージを送っておいた。家に帰ったら何を言われるだろう……。恐ろしい。「おう、起きてたのか」赤坂さんはシャワーを浴びていたらしい。上半身裸でタオルを首にかけたスタイルでこちらに向かってきた。あれ……昨日は一人じゃ入れないって言ってたのに。なんだ、一人で入れるじゃない。強引というか、甘え上手というのか。私はついつい赤坂さんに流されてしまう。そんな赤坂さんのことが好きなのだけど、このままじゃいけないと反省した。「今日、休みだろ?」「……うん」「じゃあ、大樹の家行こう」「は?」唐突すぎる提案に驚いてしまう。「暇だったらおいでって連絡来たんだ。美羽ちゃんも久実に会いたがってるようだぞ」美羽さんの名前を出されたら断りづらくなる。優しい顔でおいでと言ってくれたからだ。「でも……服とかそのままだし……」「そこら辺で買ってくればいいだろ」「そんな無駄遣いだよ」まだベッドの上にいる私の隣に腰をかけた。そして自然と肩に手を回してくる。「ちょっと……近づかないで」「なんで?」答えに困ってうつむくと赤坂さんは立ち上がってタンスを開けた。

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